ソウルのギクッがまた始まって私のイライラにスイッチを入れる。でも今度のは大分ゆっくりでさっきみたいに唐突じゃない。少なくともソウルを殴ろう蹴ろうという暴力的な衝動はまだ来ていない。ただその「何で自分なんだ」という赤い目玉と視線が合った瞬間、会話を思い出した喜びが全部吹っ飛んで数時間前のイライラが帰ってきたということは分かった。駄目だ、話を切り上げないと。一日に何回も「パートナー」を殴るなんて笑い話にもならない。面白くもないし手も痛い。
このイライラのせいでまた何を喋っていたのか忘れてしまう。そもそもソウルがどうして体を強張らせているのか見当も付かない。私は何を言ったんだろう、思い出してみよう。落ち着け、それが寛容だ、手を、そうだ手をまずはテーブルに付けて、できるだろう?
「た、魂、魂の味なんて分からないって、前に言ってたじゃない」
ソウルはぽかんとした顔でこちらを見ている。それもそうか、自分でもさっきと話が全く繋がっていないことが分かるんだから。顔を背けてソファーに座る。ほっとする。距離はまだある。手をぶらぶら振って、話が終わったこととここから離れろということをアピール。どうせ話半分にしか聞いていないことは分かってる。ビクビクしてるくらいならさっさと安全な台所にでも戻るといい。私も自分の部屋に戻る。あそこが一番、ましな場所だから。
ぐいっと手が引っ張られる。その方向に顔を向けると、ビビって台所に逃げたはずのソウルが、私の腕を掴んでいた。相手の口が開きそうになる。落ち着けと思っていた私の頭が一瞬で沸騰する。
「触んなって言ってんだろッ!!」
目の前が真っ暗になる。さっき押さえて、帰ってくる前にも押さえたはずのあの暴力が、どうしてかよみがえっている。帰ってきてしまっている。私に魂を取らせるあの衝動。標的はこの鎌。さっきまで楽しそうにしてた癖に、もう我慢が効かないの?
ウン、ワタシ、ヒトヲナグルノダイスキダカラ!
違う、違う違う違う違う違うッ!!
腕を振り払った時にソウルの体は私から離れていたが、構わないで立ち上がった。ふらつく武器へ大股に近寄って、昼間と同じ場所を叩く。顔を平手打ち。ぱん、と頼りない音がするけどそれでソウルは床に倒れる。少し顔をしかめているがまだ気が戻らないのか起き上がる様子もないし顔をかばうこともしない。怒鳴り返すことも殴り返すこともせず殴られたまま。ぎりぎりと歯を噛む。手が熱いけど背中が冷えていた。体のどこかが酷く寒い。
うう、とソウルが少し唸る。私はしゃがんで襟元を掴み上半身を持ち上げた。黒い何かはまだ収まらないで私の中で渦巻いている。言葉にならない。イライラ。はあっと息を吸い込んでもう一度手を振るう。ヒュンと風を切る音。
パァンッ!
疑問符。私が殴った音じゃない。自分の頬が叩かれた音だ。ソウルの首本から手が離れてソファーまで吹っ飛んだ。痛みがまだ来ない。衝撃の方が強い。暴力の衝動が嘘みたいに消えていく。





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