ソウルの顔がぐにゃりと歪んで泣き出す一歩手前になった、ように見えた。実際は泣いてないしそこまで悲しそうにも見えない。今のは私の願望だ。「死ね!」これが酷いのかどうか分からない。とっさに言える言葉なんて限られてる。あとが続かない。
「崖から落ちて死ね!」
「何でそこまで言われなきゃいけねえんだよ!」
「カラスに食われて死ね!鎌折られて死ね!滅べ!」
そこまで言ってようやく自分の中のこどもを理解する。何だ今のは。今私の中で何があったんだ。ソウルに言った言葉を後悔したというより自分が外で恥ずかしげもなく怒鳴ったという事実に打ちのめされそうだ。しかも殴られてぽかんとしている武器相手に。
気付くと辺りの夕日は大分濃くなっていて、橙というより焦げ茶色みたいになっていた。二回目の自問。何やってんだ?折角早く帰ってきたのにこんな下らないことで時間を費やしたのか?費やしてしまったのか?ああもう馬鹿みたい、というか馬鹿そのものだ。自分の中の暴力嗜好が嘘みたいに引いていくのが分かる。ここら辺でどうしてこんなにイラついたのか自己分析を初めて恥ずかしくなるのも手だろう。落ち着け落ち着け。あー恥ずかしい。
ソウルはまだぽかんとしている。頬に手は添えていないが体の横でぶらついていた。その手首を引っ掴んで鞄からアパートの鍵を探る。引きずられているソウルが哀れな声を出した。
「何だよお前もう意味分かんねえよ」
「こっちのセリフだよッ!」
ああもうこの野郎職人をイラつかせることにしては天才的だ。私は掴んでいる腕が「ソウルという人間の腕」ではなく「ソウルという名前の鎌の柄」ということにしてどんどん階段を上がっていく。後ろでもたつく足音。私はもたつかない。ギョッとして端に寄る住人をすり抜けて、自分達の部屋に入る。玄関を開けてすぐ背負い投げに放り投げようとしたが、体勢と身長差が悪かったのかソウルの体は傾くだけで全然投げられない。仕方なく私は手を離して(気色悪いことに汗ばんでいた)とにかく自分の部屋に戻る。後ろで立ち尽くしているソウルの気配があるけど振り向きたくもなかった。明日からはジュウドウの練習も嫌がらないできちんとやることにしよう。とにかく手を洗う必要がある。