ひとり暮らしの通例にのっとり、俺の部屋にも寝具はベッドのひとつしか存在しない。誰か泊まりに来たら何か手段を考えなければいけないが、今のところ床に布団を準備しなければいけない状況にはなっていない。
そのベッドを、今は他人が占領していた。女子だ。男の部屋に上がり込んで、仰向けに寝くさっている。スカートはずり上がって、下から見れば下着が見えるし、シャツの裾もスカートからはみ出して腹が半分見えていた。ちなみに、俺の恋人ではない。ただの友人だ。正確に言えば、恋敵というところだろうか。
「てめえこら変態ストーカー女、寝るんなら出てけさっさと起きろ」
沙布は起きる気は更々ないらしく、ああああと濁点まみれの声を上げた。居心地のいい場所を探そうとしたのかベッドの上をぐるぐる転がって、結局元の位置に落ち着く。シャツの裾が全部出て腹が丸出しだ。いっそ腹の上に花瓶でも落としてやろうかと思ったが、残念ながらうちに花瓶はない。
他人のベッド占領女は、大体紫苑と何かあった時にここに来る。嬉しいことがあった日は部屋で悶えているんだろうから、どうせ学校で恋人ののろけ話を聞かされたとかそんなところだろう。ちなみに恋人は、多分俺のことだ。このよく分からない女は、好きな男の恋人(しかも男)の部屋にふて寝をしに来るという、もう何がなんだか分からないことをしている。恐ろしいことにこれが初めてじゃないし。
「ううううう……あほまぬけばかへんたい死ね……」
明らかに寝言じゃないはっきりした発音で、誰に向けてなのか分かりにくい暴言を吐く。まあどうせ俺宛てなんだろうけど、人の部屋に来て勝手にくだをまく人間の相手なんてしたくなかった。
「起きねーと紫苑呼ぶぞ」
「呼べば?あんたの言うことなら喜んで聞くわよあの子」
即答。起きてんならさっさと帰れよ、放課後の貴重な時間(あくまで俺の、だが)を潰してるんじゃねえってんだよ。沙布は起き上がらずに、明らかに目を覚ましている声で喋る。
「そういえば、今日紫苑はどうしたのよ。何でひとりでいるの?」
「四六時中一緒にいるわけねえだろ。今頃実家の手伝いじゃねえの」
「ああ、パン屋さんか。私も行こうかな」
「行け行けさっさと帰れ」
沙布はまだ動かない。この女は空恐ろしいことに有言即実行タイプなので、たまに殴ったあとに「それ以上言うと殴るわよ!」とのたまうことがある。手足が先に出る、というわけだ。これで成績はトップクラスなのだからたちが悪い。沙布は顔をしかめつつ、
「かったるいのよ」
と呟く。その言葉通り、仰向けになって腕を放り出して、服を直さないんだからかったるいんだろう。俺は本を置くと立ち上がって、ベッドの側まで歩く。上から沙布を見下ろすと、だるそうな目と視線が合う。
「あのさあ、言っとくけど」
返事の代わりに目が細められる。いや、はっきり睨まれている。この女は決して俺のことを好いてはいない。むしろ嫌っていると言ってもいい。嫌いな人間と一緒にいる理由は、俺にはとても理解できない。
「ここにいたって紫苑は来ないし、俺といたって紫苑があんたを好きになる理由がないから」
「知ってるわようるっさいわね消えてよ」
「ここ俺の部屋。あんたがいなくなれよ」
「何でネズミの言うことを聞かなくちゃいけないのよ」
眉をしかめて、腹の底から怒りの詰まった声を出される。わざと言ってんのかこの女。他人を怒らせるメリットなんかないだろうに、単純に空気が読めないだけ?
どっちにしても、俺がいつも大人しくだるそうにしてると思ったら大間違いだ。部屋はあっという間に重たい沈黙に満たされるが、今回は珍しく俺も挑発に乗っている。はっきりしない曖昧な態度は大嫌いだ。もう一歩近付いてベッドにかがむと、シャツの襟元を掴んで沙布を引きずり起こす。顔でもぶん殴ってそのまま放り出すつもりだ、たまには痛い目を見ろストーカー。



「セックスしたい」



手が顔を張る直前で、沙布は急に体を動かした。正確に言えば俺に抱き着いてあのはっきりした声でそう言った。俺は両手の行き場所を失ってしばらく手を開けたり閉じたりしていたが、沙布は三十秒たっても離れる気配がない。ついでに顔を上げる様子もない。
「……お前、今何つった?」
「セックスしたい。してよ」
「何で俺なんだよ」
「目の前にいたからよ。あと顔がいいから」
「紫苑はどうしたんだ」
「紫苑は相手にしないって今あんたが言ったんでしょ」
沙布は自分の襟を掴んでいる俺の手ごと体に腕を回している。俺は何とか手を抜き出して、棒立ちの格好を取る。沙布も立ち上がっているので、はたから見ればまるで恋人同士で抱き合っているように見えた。ただし回されている腕の力は半端じゃなくて、背中に指が食い込んでいるみたいだ。この女、俺に何の恨みがあってこんな真似をしている。
抱き着いている女を引きはがす技術がないらしい俺は、ずるずると窓側に後退する。沙布も一緒に付いてきた。体を何回か揺らしてみても、全然はがれない。そのまま窓ガラスに押し付けられる。沙布の顔は伏せられたままだ。ぼそりと呟く。
「してよ」
「やだ。あんた処女だろ」
「何の関係があんのよ。どうでもいいじゃないそんなこと。誰にでもくれてやるっての」
「俺が紫苑に殺される」
「あああああうるさいな!」
沙布は急に声を荒げた。俺を拘束したまま足を払う。まさか足払いが来るとは思ってなかったので、俺は無様に体勢を崩した。尻餅を着きそうになるが、沙布は腕力だけで俺を床に押し付ける。尻の代わりに背中をしたたかに打ち付けた。思わず目をつぶると、今度は俺の襟が持ち上げられて、沙布にのしかかられている。顔が般若の如くだ。
「何なのよあんた?自分で紫苑のこと渡さないとか言ったじゃない。それでどうして紫苑の話を出すの?返してくれんの?違うんだったらもう言わないでよ!あんたの口から紫苑の名前が出るだけで腹が立つのよッ!!」
殴られなかったのが不思議なくらいのキレっぷりだ。沙布はそれだけ怒鳴ると、深い呼吸を繰り返して、俺の襟から手を離した。ぜいぜいと肩を上下させているが、上からどく気はないらしい。
「あーイライラする。セックスしたい」
「あんたはどんなビッチだ」
「ビッチ言うな、残念ながらまだ処女よ。くそっ、やっぱ昔襲っとくんだった……一年前ならあんたなんかいなかったのに……」
「それは確かだが、恐ろしいこと考えんなよ、女のくせに」
「早くしてよ。じゃないとシャツのボタン全部その辺に飛ばすわよ」
「女にレイプされるってのは初めてだよ、しかも処女に」
「処女処女うるさいわね、なに、まさか初めてなの?」
自分で言ってその可能性に気付いたのか、沙布はぽかんとした顔を作って一瞬怒りを収めた。その顔がアホみたいで、俺は何となく笑ってしまう。あまり返事を先伸ばしにしてるとまじで制服をズタズタにされそうだ。腹の辺りに置かれている沙布の手を取ると、この女は反射的に思いっ切り払おうとする。
「初めてじゃない。でも人に脱がされるってのが趣味じゃない」
「あんたの趣味なんてどうでもいいわ。やるの、やらないの」
「簡単に二択にすんなよ。まあ、ほんとにいいんだったら、やるけど」
ふう、とため息をついて、俺は沙布に上からどくように顎をしゃくる。沙布は不満そうだったがそれでものいて、床にぺたりと座り込んだ。怒鳴った反動で腰が立たないらしい。それとも緊張で足が震えるとか可愛い真似のつもりだろうか。俺は立ち上がって背中をさすると、沙布に向かって手を差し出す。
「床は背中が痛くなると思うけど」
「……言われなくても、そんくらい知ってるわよ」
沙布は意外にも、素直に手を取った。こちらがちょっと力を入れなければいけないくらい、腰と足が踊っている。ふらつきながらベッドの側まで行くと、限界とばかりに倒れ込んだ。相変わらずシャツやらスカートやらの端を気にしない寝方だ。軽く足を丸めているから下着も丸見えで、腕は投げ出しているものの肩ががくがくと震えている。よく見れば呼吸が浅い。
俺もベッドに乗っかると、沙布の肩を掴んで仰向けにさせる。沙布は顔だけはどうしてもこちらに向けまいと思っているのか、目は合わない。俺はシャツのボタンをもうひとつだけ外して、沙布の首元に手を当てた。指先で分かるくらい、ドクドクと脈打っている。興奮じゃない、緊張だ。試験の結果発表を待っているような、目の前が暗くなるほどの緊張。そりゃぶっ倒れるわな。
沙布は目を固く閉じている。何を考えているのだろう。何も考えていないのかもしれない。緊張が俺にもうつりそうだ。紫苑も昔言っていたが、沙布は何か、そういう対象にはしていなかった、らしい。仲のいい友達であって、そこに恋愛感情なんて持ち込まれない。これは紫苑の言い分だ。
俺はどうだろう?
俺は別に幼なじみでも何でもないし、この女が一番親しい友人というわけでもないし、そもそも仲よく喋ったことさえない。最初に会った時から妙に喧嘩腰で、次会った時は殴られそうになった(多分紫苑とキスしてたからだけど)。というくらい、ある意味険悪な関係。
それが今はどうだ?今だけかもしれないが、俺は沙布とセックスしようとしている。理由は「目の前にいたから」という最悪なものだけど、じゃあ他の奴が前でも沙布は今この瞬間に「セックスしよう」なんて持ちかけたんだろうか?それとも俺の部屋に来るたびに考えていたことが、今日急に表に出ただけなんだろうか。さっきの言い合いを考えるに、俺を紫苑の代わりにしている、とは考えにくい。沙布はきちんと選んで考えて行動する。つまり、俺は選ばれたのだ、彼女の中にある何らかの基準から。
どうする?ここでやめにすることもできる。写真で切り取れば随分と間抜けな格好だが、ここでこの馬鹿な女を追い返して、紫苑の家が営業するパン屋に向かわせたっていい。そしてもうこの家に来ないようにさせることだって可能だ。俺にはそれができるはずだ。
「……いつまで固まってんのよ」
意識が飛んでいたらしい。俺は沙布の首元に手を置いたままだった。沙布は目を開けて、緊張から来る掠れた声でそう聞いた。腕や足は相変わらず力が入らないのかだらしなく投げ出されている。俺は首を振って目を覚まさせる。そうだな、ここで逃げたって仕方がない。同じことがいつか起こりうるなら、それは今でいい。明日休みだし。
首から手を離して、シャツのボタンを外していく。意外に色白だ。女子特有の柔らかそうな上半身。全部外すと、自分で勝手にごそごそ動いてベッドからシャツを投げ捨てる。下着姿を見せるのは恥ずかしくないってか、まだ日も沈んでないのに。
「じろじろ見ないで」
って何で頭の中が読めるんだ。沙布はギロリ、と据わった目で俺を見ると、手を後ろに回してブラのホックを外す。おいおい、出血大サービスもいいとこだな、あんたにとっての俺は犬と一緒か。ペットの前で裸になっても恥ずかしくないのと同じ理屈ですか。
胸はさっき押し付けられたので何となく大きさが分かるけど、横になっているので少し偏平に潰れている。服を脱ぐと上下に動くのがよく分かる。俺は何となく触る気になれない。触ったら一線を越えてしまう。その線が越えていいものなのかどうか、いまだに判別しきれない。越えたあとに戻って来られるのかどうかも分からない。
「沙布さんよ、紫苑用にとっとかなくていいのかよ」
紫苑の名前をつい出してしまったので、また怒鳴られると思ったが、沙布は存外に落ち着いた声で返答する。
「いいよ、しつこいな、寒いの、やるなら早くしてよ、私だけやる気みたいじゃない」
「いや実際にそうなんだよ、あと胸ちっさくて俺の趣味じゃない」
「この状態で女の子にそういうこと言うの?言い触らすわよ」
誰にだよ、というツッコミは置いておくことにして、俺はもう一度ため息。緊張が完全にうつっている。興奮はしていない、といいけど、残念ながら俺も年頃の男なので、同い年くらいの女子の裸なんて、まあ、正直、興奮する。たとえ相手が沙布だろうとも。
そろそろと胸に触れてやわやわと揉む。沙布の肌は少し熱い。ちょっと触っただけで大袈裟にビクついた。
「、んっ、やっ、やじゃないっ、今のなし」
「訂正はいいよ」
声を上げてすぐに手をバタバタと振られた。気恥ずかしいのか誰かへの罪悪感なのか。とにかく沙布は自由になった手で口を抑える手段を取ることにしたらしい。
こちらを殴る腕がなくなったのを見て、俺はスカートに取りかかる。この手のホックというものがどうも苦手で、外すのに時間がかかるのだ。沙布は「んむっ!?」と変な声を出したが、どうにか足で蹴り上げるのは勘弁してくれたらしい。
スカートを下げて、まだ力が入らないらしい腿に手をやる。膝に触れている時点で聞こえていた抑えた声が少し大きくなる。
「はぅっ……んんんッ、あ、もうやだ……」
内ももに触れた時点でこれだ。反射的に足を閉じようとするのを押さえ、下着越しに入り口をなぞる。つぷ、と中に沈むような感覚がして、思わず沙布を見上げた。本人は手で顔を隠している。それでもはっきり分かるくらい赤かった。俺は一応場を盛り上げようと報告を試みる。
「あんたな、これ、いつから濡れてんだよ。さっきじゃないだろ」
「ううううううっさいわね!い、色々想像すると、勝手にこうなんのよ!ほんと女ってめんどくさい!」
「何をどう想像したのか詳しく教えてほしいんだけど」
下着は少し押しただけで湿っているようだ。ぐに、ぐに、と連続してさすると、沙布の声が何となく甘みを帯びる。
「ひぁっ、いゃ、あふっ、んぅっ……」
「ほら何をどう想像したか、詳しく」
「はァ!?な、何でそんなの、」
「雰囲気を盛り上げなきゃな?」
「そ、そんなのっ、知るかっ」
顔を真っ赤にしつつ(興奮というよりは羞恥心の方が強そうだが)、強気に喋るストーカー女。一体どうやったら喋ってくれるのやら。俺は下着の中に手を差し込む。中はべちゃべちゃと少しねばった汁で濡れている。差し入れた瞬間沙布は悲鳴を上げた。
「きゃふっ!んぁ、ちょっ、あんた」
「ほら、早く言って」
「そっ、そんなん、ひぁっ、言えるかっ」
直接触ると、明らかに反応が違う。こんなに溢れないよという量が俺の掌を汚した。ぐにぐにいじるだけでなく、指の一本二本程度なら少し飲み込んでくれる。
「ぃあっ、ゅっ、ゆびっ、何で入れてんのよ!」
「あんたが喋らないからだよ」
処女処女だと本人が連呼していたわりには、二本とも第二関節くらいまで入る。中を少し探りながら、陰核を親指でこする。おお、凄い勢いで腰が震えた。
「ひァッ!んんっ、やっ、やだっ、分かった言うからやめてよっ!」
「はいはい」
俺は親指だけを休めて指は抜かない。抜き差しする方が辛くないか?沙布は膝をがくがく震わせながら、掠れた声を出す。
「、だから、ここ来ると、その、うう、くそ……」
「分かんねえよ、頭いいくせに自分の説明もできないわけ?」
「くそっ、あとで酷い目に遭わせてやるわ……」
沙布は物騒なことを呟きつつ、さらしたままの腹の上に手を置いた。さすっているから冷えたのかと思いつつ、股のすぐ上くらいの位置だから、多分うずくんだろう。自分でやってもいいんだよ?
「だから、ここ来ると、イライラすんの、そんで、ほら、さっきも言ったじゃない」
「何て言った?俺怒鳴られたことしか印象にない」
「だから、その、い、イライラすると、せっ、セックスしたくなんの!くそっあとで殺す」
「終わるまで待ってくれよ、処女のくせに淫乱だなこのビッチストーカー。もしかしてここ来るたびにこんなんなってたわけ?おいおいどんなんだよ、俺はあんたの恋人じゃねーんだけど」
半分本気で半分は嘘だ。俺は沙布から指を抜いて、そのまま顔に持っていく。沙布は俺を睨んだままだけど反論しない。反論しないのを見ると俺の言葉はある程度的を射ているのかもしれない。
何も言わずに口に含ませると、沙布は大人しく舐めていく。自分の体が出したものだが、どう思っているんだろう?ちなみに俺は指を舐められるのがわりと好きで、半裸で気の強い優等生が悔しそうにしながら指をしゃぶる様子なんてもう最高だ。正直実際に自分のを舐められるより興奮すると言ってもいい。
沙布はある程度舐めると、離せとばかりに思い切り噛んだ。俺は何となく潮時な気がして、ベルトを緩めて前身を取り出す。沙布が一瞬ぎょっとした顔になるが、自分が希望したことだ、慌てないし逃げない。さすが優等生。さて、ゴムはどこかな。
「はい」
「はい?」
「これ使って」
と思ったら沙布から手渡された。お前どっから取り出したわけ?マジシャン?俺の不思議そうな顔が分かったのか沙布は呆れた顔で、
「あんたの部屋からパクったのよ」
「はあっ?うそ、どっから?ってかマジで?いつ?」
「ちょ、何本気にしてんの?嘘に決まってんじゃない」
「ってことはこれあんたの持ち物?」
「学校の女子は皆もらってるわよ。今日は体育あったし偶然持ってたの」
沙布の呆れ顔は芸術の域だ。俺はありがたく頂くことにしてなるだけ手早く装着する。つーか、これ指舐めだけで勃起したってことだよな、俺も沙布に負けず劣らず変態かもしれない。
何となく緊張がある。でもあまり緊張するとお互いに萎えそうだし吐きそうだし、時間をかけてもいいことなんて何もない。俺はうっし、と一声上げて、沙布にも声をかける。
「じゃ、入れるから」
「………………」
無言。無言はやめて欲しい。いわゆる正常位というやつだが、俺も沙布も互いに抱き着いたりしないので、俺は覆いかぶさるようにしないといけない。下着をずらすようにして入り口に当てる。
「あっく、んぐっ、あふっ……」
さすがに指二本というわけにはいかず、この淫乱さんでさえ痛そうな声を出した。俺はどうしたらいいのか悩んだが、答えが出ない。でも進めるしかないのかもしれない。
「あぅっ、っんあ、んんんっ!んむっ!?」
呻き声の最後が疑問形で終わるのは、俺が急に口をくっつけたからだろう。あー、沙布とキスする予定なんて生涯なかったのに、どうしてくれる。沙布の方は涙を流していたが、これは泣くほど嫌だという意味ではない、と思いたい。口の中で舌が触れるたびに膣穴が緩くなるような気がして、俺はサービスのつもりで舌を触れ合わせる。沙布は慣れてないのか呼吸のたびに口が開いて、顔がよだれでべとべとになっていた。
「あっ、はぁっ、あーあ、やっちゃった……」
どうにか最後まで入ったかなという瞬間、沙布はそんなことを呟いた。後悔先に立たずだが、それを俺の前で言うのはやめてくれ。投げ出された手が俺の指に触って、何本かまとめて掴まれる。何で掴むのかと思ったら、今度は掌を合わせて指を絡ませた。手を繋ぎたかったらしい。……何というか、この状態でそれをやられると、沙布のくせに可愛く思えるから不思議だ。
「あんっ、ふぁっ、やっ、いた、いってば、」
手を繋いだままだと動きづらいけど、このままぼうっとしていても仕方がない。ずるずると腰を動かすと、性器同士が触れ合う音が無駄に響く。何か沙布の声より大きいような感じだけど気のせいだ。それよりも挿入の快楽が強くて音を気にしていられない。
沙布は手を繋いでから口を押さえていない。多少は我慢しているようで時々鼻にかかったような音がするけど、段々その頻度も低くなる。
「やんっ、ひぁあっ、ごめっ、なんっ、か、へんなこえ、でるよ、」
「出したかったんじゃねえの?」
「だしたく、ないってば、いぁっ、やだっ、うぁっ」
そうだね、やっぱ優等生かつ他に好きな人間がいるやつはある程度我慢してくれないと。俺はまた指を舐めてもらいたい衝動にかられたが、それがなくても簡単に達しそうだ。あー、早漏かなー、どうしよう?
「ぁんっ、やっ、やだっどうしよっ、とまんなっ、ひぁっ、やだやだやだ」
声が止まらないのか、沙布はひとりでベラベラと喘いでいた。人の嫌そうな声には本当に興奮する。ついさっきまで俺を怒鳴り付けていた人間と同じとは思えない。でも手は離さないし肌は熱いし腰も意外に細い。ただの俺と同じ学年の女生徒だ。だったら他の奴らと同じような反応をしてもいいのかもしれない。
「あっ、んっ、やっ、んんんっ!〜〜〜〜〜〜ッ、あっ、はっ……」
俺がゴムの中に射精するのと大体同じくらいに、手が強く握られて膣内がきゅうううっと収縮する。沙布の体がびくびくと震えて手から力が抜ける。開いていた足が内側に折れて、変な呼吸のリズムが聞こえる。
ふう、やれやれ。これでとりあえずは終わりだ。俺はどろどろになった沙布の中からゴムが外れないように抜くと、とりあえずこれを処理すべく立ち上がった。俺もちょっと腰が笑っているが、歩くのにさして支障はない。
「……待って」
死んだようになっていた沙布が、急に体を起こして声を出した。俺はビビって精液入りコンドームを取り落としそうになるが、どうにかそれは阻止する。沙布は特に服も着ないまま、ホックの外れたスカートだけ腰に巻いていた。ベッドに座り直してこちらを見ている。
「なに」
「それ、それよそれ」
これ?とゴムを揺らすと物凄い顔で睨まれた。
「違うに決まってんでしょ早く捨てなさい、適切に」
邪魔したのは誰なんだよ。俺はとりあえず口を結んでごみ箱にインする。あー、燃えないゴミ、の方だったっけ?
沙布はじぃっと俺から目を離さない。どっかで見たような顔だ。どこだったかな、と思い出す前に、沙布は四つん這いのままこちらに近付いてくる。な、何だよ。
「それ、舐めてみたい」
「は?」
「舐めていい?」
今度はこっちがぽかんとする番だ。おいおい、沙布さんよ、あんたエロ漫画の読みすぎだよ。そんなことを女の方から言われたのは初めての経験ですよ。
沙布は俺の返事も待たずにベッドから滑るように降りて、端に座る俺の前に這うように移動した。しまってもいなければもちろん拭いてもいない汁まみれのペニスにじっと顔を近付ける。恐ろしいことにその表情に嫌悪感がない。ちょっと失礼、とばかりに足を開かされ、躊躇いなしに先端に舌を這わせる。味見でもするみたいだ。
「……特に、何てことないのね」
よしよしよかったこれで終わりか、と思いきや、沙布は足に当てていた手を棹に移動して、ばくりという音が似合うくらい思い切り口に入れた。思わず「わふっ!?」とかいう声を出してしまう。沙布の口の中で舌がぬるぬると動く。練習でもしたのかってくらいスムーズで戸惑いがない。っつーかマジで嫌じゃないのかよ、どういう了見だ。
やめてもらいたくて頭を掴んだが、まるで俺が無理にやらせてるような絵面になってしまって逆効果だ。沙布は根本まで含んで緩くストロークを繰り返す。まずい、俺まで変な声が出そう。沙布は何が面白いのか丁寧に汁を舐め取り、わざわざ音を立てて飲んでみせる。
「……あんたのフェラ動画なら、買いたがる物好きがいそうだな」
「はあ?そんなこと考えてんの?ほんと馬鹿ね」
「これがばれたら、ファンに半殺しだよ俺」
「いないわよそんな連中、んっ、はぁ、」
沙布はいったん口を離すと、苦しそうに息を漏らす。そういえばほぼ裸のまま床に座っているんだった、寒いのか?
「あ、おっきくなったね」
「実況はいいんだよ、当たり前だろ」
「……ねえ、ネズミ、あんた私に指舐めさせたい?」
「ぶふっ」
あまりにも唐突だったので変な息の吸い方をしてしまう。沙布は何故だかまだ舐めたりなさそうにしていたが、手を床についたまま俺を見上げて問いかけた。
「さっき私が舐めた時、今より気持ちよさそうな顔してたわ。させたいならしてあげる」
「…………」
気まずくなって何となく目をそらす。でもその時点で認めたも同然だ。あんたそんな観察をいつもしてるのかよ。沙布はふう、と息を吐くと、俺の右手を取った。
「ほんと、あんたもつくづく変態よね。紫苑は変態にばっか好かれるんだわ」
「自分が変態ってのを認め」
たな、とか最後まで言い切らない内に沙布の舌が右手の掌を舐め上げる。自分でも驚くくらいそれは気持ちいい体験で、「かはっ」なんて高い声が出てしまう。何だ今の俺の喉が発したのか?
沙布は差し出した手を丹念に舐めていた。一本ずつ口に含んでは離し、たまに噛む。汗でも舐めているのか掌や指先をざらざらした濡れた感触が通る。
「ぐ、う、んぁ、」
小指までが終わった時には、俺の息子さんはびっくりするぐらいに勃起していた。完全に変態だが、もう何と言われようがどうでもいい。沙布はうわっと言いながら少し引いたようだ。
「あんた……ほんと変態ね。指だけでいいなら手洗えないじゃない」
「、そ、だよっ、もうほっとけ、」
「あっそ。じゃ、もう一回いい?」
は?と俺がその言葉の意味を理解し終わる前に、沙布はすっと立ち上がり、俺に抱き着いて勃ったままのペニスの上に腰を下ろしていく。おい、おいおいおいっ!
「あんっ、ふぁっ、んんっ、また入っ、ちゃったぁ……」
沙布は笑顔さえ浮かべながらそう言う。俺は正直なところ実況するのも難しいって状況だったが、何とか暴発は避けた。くそっこいつが処女のくせに淫乱なことをすっかり忘れていた。興味だけでフェラするはずがない、自分の欲望が最優先だ!
そこまでしてようやく、さっきの沙布の目、好奇心だけで光ってるような目をどこで見たのかを思い出す。紫苑だ。この幼なじみどもは同じ目で人を見やがる、何考えてんだ!
沙布が体重をかけると当たり前のように俺は後ろにひっくり返った。沙布は腹の上にまたがったまま、にや、と悪質な笑みを浮かべる。
「ぅあっ、はぁっ、まだだめだからねっ、いいって言うまで、ぁんっ、がまんして」
意味が分からない!俺は答えられずにぐうと唸るしかできない。こちらがはねのけないのをいいことに、沙布はやるゆると腰を上下させ始める。ついさっきまで処女だったやつとは思えない。脳内から快楽物質が出まくってて、痛みとか異常とかを考えられなくなってるんだろうか。
「あっ、ふうっ、んっ、はんっ、あは、凄い顔」
腹の上の方で胸が揺れている。結合部はスカートに隠れてよく見えないが、沙布の声の合間にぱちゃぱちゃいう音が聞こえた。自分がどんな顔をしているかなんて分かるか、何かもう今にも出そうで冷汗さえかいてんだ。
「もっ、ちょっと、ぁうっ、はぁっ、あっ、んんっ!」
あれ、そういえば、今回ゴム的なものを付けていないけど、どうすんだ。この状態じゃ何もできない。頭の奥にチリッとした恐れが混じる。でもそれは別の意味に伝わったらしくて、手や足がぶるぶる震える。
沙布が何回目かに腰を下ろした時に、我慢がきかなくなる。頭の不安がいったん追いやられて、射精の快楽だけが全身を包む。
「あはっ!んっ、んんんんんっ!」
沙布は軽く笑って背中をそらした。特に抜く様子もなく、終わるまでまたがったまま。息を切らして体を曲げると、スカートをべろんとまくり上げた。まだ中に入ったままだけど、白っぽい汁が溢れているのが見えた。
「あ、は……凄いね、何か出されちゃった」
「だ、出されちゃったって、あんたな」
「大丈夫よ、生理終わったばっかだから。あれ、それっていいんだっけ」
「知るか」
沙布はどっこいしょとでも言いたそうなけだるい雰囲気で、俺の上から離れた。寒いのか横に倒れ込むと、一回震えて腕で自分を抱く。
「はあ……疲れた。どっと疲れたわ」
「こっちの方が疲れたよ」
「そうだ、着替えないと」
俺の反論は無視されて、沙布は裸のまま立ち上がる。股から、だら、と溢れた液体が足を伝う。気にした様子がないのがある意味大物だ。さっぱりしすぎてて俺だけ寝ていられない雰囲気だ。
さっぱりで思い出したが、沙布の表情はまさにそれで、「ストレス解消」ってのにはそれなりの効果があったらしい。最近の若者の考えることはわけが分からない。
「……沙布、あんたなあ、何がしたかったんだ」
「色々。セックスもしてみたかったしフェラチオもしてみたかった。ついでに相手は誰でもよかった。別に紫苑に報告してもいいわよ」
「すんなアホ」
「しないわよ、あ、でも手のことは言っとくわ。手を舐めると凄い顔になるって」
「やめてくれ」
沙布はさっさと服を着ている。一回伸びをすると、こちらに向き直る。目が合った。すたすたと近付き、肩に手が置かれる。ずいっと顔が寄ったのでキスでもされんのかと思ったが、そんなセンチメンタルなことが起こるはずがない。沙布は真面目そのものという顔で問いかける。
「ねえ、紫苑とはセックスした?」
「……答えたくない。ってか何であんたに教えなきゃいけないんだ」
「聞きたいのよ、あんたの口から。大丈夫、今はもうイラついてないし。何言われてもそう簡単には怒らない」
信用できるか。肩を掴まれて額がぶつかってんだから、このまま頭突きコースに決まっている。今頭突きなんてされたらリアルに意識が飛んでしまう。
俺は答えないけど沙布は目をそらさない。ばちばちと三回ほど瞬いて、唐突に俺の口を舐めた。何だその行為は、嘘発見機か。
「あれ、ほんとにまだ何もやってないの?」
「その決め付け口調を何とかしろ」
「ふうん、あっそう」
沙布はひとりでうんうんと頷いて、ようやく側から離れる。むやみに決意に溢れた表情だ。おい、何を決めたのか教えてほしいんだけど。





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