何故だ。
「何故だ何故だ何故だ」
意味が分からない。何回だって言わせてもらうが、自分の頭がおかしくなったんじゃないかというくらい、俺の頭は混乱を極めていた。
大丈夫、まだおかしくなってない。確かに昨日の夜高熱を出したが、食べたものも言動も覚えているし、夜中に頻繁に起き出して熱を測ったことまで覚えている。だから、まだおかしくはなっていない、はずだ、そう思いたい。
「……だっつうに……」
どうして俺は裸で、隣には同じく裸のマカが、ぐうぐう気持ちよさそうに眠っているんだろう。















死神様に誓うが、俺は何にもしていない。そもそもこいつがいつ入ってきたのか知らないし、呼んだ記憶は勿論ないし、部屋に入れたとしても誰が隣に寝かせるか。しかも、裸って、何だ。とにかく意味が分からない。
頭をかきむしりつつ、時間を見る。寝ている間に大分熱は引いたらしく、立ち上がるだけでクラクラするというようなことはなかった。服を着替えようとして勝手に脱いで、でも着忘れたんだな。そんで、マカは寝る場所を間違えたんだ、ちょっと馬鹿なんだ。そうだ、そういうことにしよう。自分の顔がひくついた笑みを浮かべるのが分かる。するか、そんなこと、何もしてねえよ、これは誰への言い訳なんだよ。
「五時ちょっと前か……」
「随分早いねえ」
「!!!」
俺はギョッとしてベッドの端から転がりそうになる。時計が手から飛び出て床に投げ捨てられる。声をかけたのは、目をこすりつつ起きやがった、阿呆の職人である。
マカは何故か嬉しそうだった。俺とは違って、自分が裸であることに何の疑問もないらしい。俺は掛け布団を引っ張り上げ、まるで男女が逆転した格好になる。マカはブラブラと手を振った。
「おはよー。熱下がった?」
「おっおっおっ、おまっ……なんでっ……ここっ……」
「下がったんだね〜。さすが人肌ってのは聞くでしょ?実践した私を誉めて下さい!」
とか言いつつ胸を張る。俺は首を振り続けた。ありえない。何だって?人肌?意味が分からないことを言っているんじゃねえよ、俺にも理解できる言葉で言ってくれよ。
マカはぶう、と口をとがらせた。
「何だよう、ソウルから言ってきたんだよ。一緒に寝てくれって。だから寝てやったのにー」
「お、俺が言った……?」
「そうだよ。熱にうなされてきつそうだったから、仕方なく一緒に寝てあげたんだよ」
さも自分の提案ではないと言いたげだが、その説明では足りないところが多々ある。俺はいつマカを追い出して服を着るか機会をうかがっている。
「なっ、ならお前、何で、裸になる必要が」
「はだか?」
マカは単語を繰り返したあと、自分の体を改めて見下ろした。凹凸がない体だが、ようやく恥ずかしくなったらしく、布団の反対側に潜り込む。悲鳴は上げないのがまた実にマカらしいが、どうしてそんなに冷静なのだ。どう控え目に見てもお前が首謀じゃねえかよ。
「ソウルは自分が昨日したことを覚えてないんだっ!」
「何も覚えてない」
「嫌がる私を無理矢理ひん剥いて、あんなに激しくした癖に!」
「熱で三十分おきに起きたことは覚えてるけど、深夜からはすっきりして寝たんだよな」
マカはよよよ、と泣き崩れる(真似をする)が、そこまで過剰に演技をされると、これが茶番だったと理解できてようやく頭が働いてくる。当たり前だ、自分自身をもっと信じろよ、そこまで規定外な行動を取るはずがない。
さて、ここまで分かったらいちいち裸でいるのも馬鹿馬鹿しい。早く着替えないと、この様子をまた猫にでも発見されたらことである。
「……可愛い女の子の涙を無視すんなっ!」
やれやれ、と思っていた矢先に、朝から元気な職人が、布団からはねてこちらに噛み付いた。くるまったままの俺を押し倒し、体が小さいのをいいことに上に乗ってしまう。俺は熱の余韻で冷えた体に、また妙な冷や汗が出てくるのを感じた。
「こら、着替えたいんですけど」
「昨日は何もしなかったから、今何かしようよ」
「何かしてんだろ。何で裸なんだよ」
「服がうまいこと着替えさせられなかったの。これは本当」
じゃあ残り全部嘘かい。俺はやれやれと首を振るが、上に乗ったマカはやけに真剣だった。
「年齢とかどうでもいいもん。いっつも馬鹿みたいな理由で逃げんなよ、こっちは本気なんだから」
「……と言われても」
「今日という今日は覚悟を決めてもらうんだからあああっきゃっあきゃっぎゃあああ!!??」
悲鳴。格好いい台詞を最後まで言えなかったのは俺に責任がある。まあ、つまりは、腕力にものをいわせてマカを上から押しのけ、布団をかぶせて巻いたあげく、そのまま転がして部屋の外まで追い出したのだ。ドアの向こう側から職人のくぐもった悲鳴が聞こえるが、無視して施錠。ブレアが起きるかもしれないけど、今回だけは俺に非がないことを分かってくれるだろう。
「まあ、せめて、腕力で負けないくらいに成長してから来て下さい」
「むきゃー!!!!」
扉の外でバタバタ暴れる気配。別に腕力と引き換えにマカの言うことを聞くつもりはないけど、暴れてドアを壊したりしないでくれよ。





2009:04:28