魂の共鳴中に意識がそれて、気がつくと俺はまたあの暗い部屋にいた。何たること。自分でも舌打ちが出る。
いつもいる小鬼が椅子の上で跳ねていた。「よーうソウル、またおいらの力を借りに来たのかい?」俺は答えるのも面倒で、首を振って辺りを見渡す。
暗い部屋、黒い部屋だ。家具の全てが黒く統一されているというわけでもないのに、黒い、という印象しか与えない。俺は定番になりつつある黒いスーツを緩めながら、さて、と目を細めた。一体どうした。次の未来が見えない。
「ソウル、まだここにいたの?」
ドアを開けた音もなく、またマカがそこに立っていた。小鬼がニヤニヤと気持ち悪く笑っているが、今度は俺は驚かない。マカも、以前と同じ、黒いドレスを着込んでいる。
「ああ、もう出るところだけど」
「その割には動こうとしてないね」
「うっせえよ、お前もいちいち入ってくんな」
黒い血が全てを飲み込もうとしている。頭の奥がザワザワ波打っているようだ。小鬼は絶え間なく笑っている。椅子の上で、神経を逆なでするような声で笑っている。
「出てく?」
「出てくよ」
「いつ」
「今」
「うーそだ」
ていっ、と妙な声を上げて、マカが何か投げてきた。あまりにも唐突なことなので、俺は顔を覆ってそれを避ける。投げられた白いものは、床にポトポト落ちて、白いシミを作った。いや、シミじゃない。これは。
「……ポップコーン?」
「そう」
「、何でお前はそんなもん持ってるんだよ」
「椿ちゃんがくれたんだよ、家でもできるポップコーン」
「帰ってからやってくれよ」
「もう持ってないってば」
マカは手をひらひらと振ってみせた。俺は長くため息をついてみせる。はああああ。この部屋にいるといつも妙に緊張するのに、今日はそれがない。これは何なのか、ほんとにマカか、俺が勝手に作ったイメージじゃないだろうな。
「ていっ」
「いつっ!」
「失礼なこと考えてるとすぐに分かるんだからね、特に今は」
「もう持ってないって言ったろ!」
「もう一回出てきたんだよ」
ほら、ほら、ほら。マカは手品師よろしく、次々と手のひらから白いものをあふれ出させた。最後にいつもの馬鹿でかい本まで取り出してみせて、両手で抱える。
「マカチョップ。食らう?」
「結構です……」
「戻る気になった?」
「最初からなってる」
「じゃあ、早くしよう。あまり長くいちゃ駄目だよ、ここには」
「分かってるじゃん」
「当たり前だね」
マカは俺の手を引く。ドアを開け放して、そこから足を踏み出す。後ろから小鬼の「あーあー」という声が聞こえるが、すぐに埋もれる。
開けっ放しのドアの外は、ぐちゃぐちゃとした空間だった。空間というより緩い水の中。マカの手はすぐに離れていく。やっと戻れた。じゃあ、もうひと踏ん張りするとしようか。
2008:9:21